備蓄米の放出が始まったあとのコメの取り引き状況について、NHKが全国の卸売会社を取材したところ、取材した13社のうち7社が「コメが不足している状況は改善していない」と答え、備蓄米の放出後も卸売りの段階でコメの不足感が十分に解消されていない実態がみえてきました。
スーパーのコメ平均価格 5キロ4220円 16週連続の値上がり 全国のスーパーで4月20日までの1週間に販売されたコメの平均価格は5キロあたり税込みで4220円と、前の週より3円値上がりしました。
3月下旬以降、備蓄米が流通する中、16週連続の値上がりとなりました。
農林水産省は全国のスーパーおよそ1000店でのコメの販売価格をまとめ毎週公表しています。今月14日から20日までの1週間に販売されたコメの平均価格は5キロあたり税込みで4220円でした。
前の週と比べると3円値上がりし、上昇幅は縮小傾向にあるものの16週連続の値上がりとなりました。
高値の一方で 販売量は去年より約15%増加スーパーでのコメの価格は去年の同じ時期は2088円で、前の年の2倍を超える高値が続いている一方、合計のコメの販売量は去年より14.9%増加しました。
値上がりの要因について農林水産省は「備蓄米が流通する中、比較的安い備蓄米以外のコメも購入されていることが考えられる」としています。
農林水産省は先週、備蓄米の3回目の入札を行い、今後も夏まで毎月放出するとしていて、価格の安定につながるかが焦点です。
新潟のスーパー 備蓄米入荷せず コメ不足の状況続く新潟県産のコシヒカリを中心に取り扱っている新潟市にあるスーパーでは、ことし2月ごろからコメが品薄になっていて、今も一家族あたり一袋に制限して販売しています。
コメの流通を円滑化するため政府が備蓄米の入札を進め、県内でも徐々に流通していると見られていますが、このスーパーでは備蓄米が入荷せず、コメ不足が解消されない状況が続いています。
スーパーによりますと、28日も取引先の卸売業者に問い合わせましたが、3月の2回目の入札以降、卸売業者も備蓄米を確保できておらず、入荷の見通しは立っていないということです。
高井栄二朗店長こうした中、このスーパーでは、これまで取り扱いのなかった品種の入荷が始まりましたが、店全体でまだ十分な量のコメを確保できておらず、店頭での価格は例年より高い状況が続いているということです。
買い物に来ていた60代の女性は「備蓄米を店頭で見かけることもなく、価格が下がった印象もありません。コメは代替がきかないので安くなってほしいです」と話していました。
スーパー「ichiman」の高井栄二朗店長は「備蓄米への期待感は最初だけで入荷の見通しは暗いです。期待してもしかたがないと思い、ほかに確保できるコメがないか卸売業者に問い合わせたり、農家に直接売ってもらえないか頼んだりしています」と話していました。
卸売業者に聞く 備蓄米放出開始後の取り引き状況はNHKは「全米販」=「全国米穀販売事業共済協同組合」に加盟する全国の卸売業者のうち13社に、備蓄米の放出が始まったあとの取り引き状況などを聞きました。
このうち取り引きの状況については「コメが不足している状況は改善した」と答えた企業が4社だったのに対し、7社が「改善していない」と答え、備蓄米が放出されたあとも、コメの不足感は解消していないと受け止めていることがわかりました。
仕入れ価格については、13社すべてが「下がっていない」または、「ほとんど変化はない」と答え、4月に入ってスーパーなどの取り引き先に値上げを要請したという会社も5社ありました。
また新米が出回る前の夏の端境期までコメの在庫がなくならないようにするため、販売する量を調整しているという会社が複数ありました。
北海道の卸売会社からは「備蓄米は希望よりも少ない量しか確保できず、在庫も潤沢ではないので品切れを起こさないよう調整していく必要がある。備蓄米は市場に出てきてはいるが、価格を下げられるほどの量ではない」と話していました。
東北地方の卸売会社は「コメ不足の状況は続いていて、この夏の端境期まで自社の在庫をもたせようと四苦八苦しているが、難しい状況になっている。スーパーのバイヤーなどがこれまで以上の量の発注をかけてくるが、とても応えられない」と話していました。
また、大手の卸売会社からは「通常の銘柄のコメはこの時期すでに売買が少なくなってきていて、備蓄米が出てもほとんど影響はない。もともと不足していた分を補う程度の量のため、取引価格へのインパクトは小さい」と話していました。
このほか、九州地方の卸売会社は「備蓄米は流通しているが、コメの不足感は改善されていない。価格も高いままで、ことしの新米が去年より値上がりするのは間違いないとみている」と話していました。
専門家「備蓄米は確かに安いが卸売業者は簡単に値下げできない」 農業政策が専門の東京大学大学院農学生命科学研究科の安藤光義教授は備蓄米の放出が始まってからも店頭価格の高止まりが続いていることについて、「備蓄米は確かに安い価格で供給されているが、卸売業者は去年の秋から高い価格でコメを買い取っていて、簡単に価格を下げることができないのが現状だ」と指摘しました。
また、高値が続くことによるコメの消費への影響については「マーケットが縮小すると生産者は困るし、量としてはそれほど多くないが、外国産のコメに切り替える動きも出ている。生産者にとって将来の見通しが立つような価格で安定的に取り引きされることが重要だ」と述べました。
一方、今後のコメの価格については「令和7年産の生産量がかなり増えそうだということになるとコメの市場は軟化していくが、その見通しはまだ立っていない。生産量をどれくらい増やすのか、その力がどこまで残っているのかが、ことしはっきりと分かると思う。生産者の高齢化もかなり進んでいるなかで、特に、東日本の米どころでどこまで生産が増えるかにかかっている」と述べました。